お嬢と隷属青年は我々だと幸福を享受したい2【d!】

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鬱様はトントン様の拳から解放されてもなお、まだ痛むのか頭を抑えて悶えていた

結局、感謝と謝罪を言えなかったが今更わざわざ自分から言葉を口にするような度胸なんて、あいにく俺は持ち合わせてねぇんだ

主人から続きを促されるなら従いはするが……、
そんな感じの雰囲気は無さそうだ

膝に乗っている兎が瞼を閉じる秒数が長くなってきた頃、エニスがハッと思い出したような顔をして

「アル、知ってる？ご飯を食べおわったら、いただいた命にかんしゃして”ごちそうさま”って言うのよ」

ショッピとチーノに教えてもらった、とそう言いながらまたしてもエニスは謎のドヤ顔をした

「ほら、手を合わせるのよ」
「あぁ……」
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした…」

エニスの真似するように後に続いて言えば、やっぱり満足そうな顔をする

まるで犬が芸をしてくれたことを喜ぶ子供みてぇだ
あいつ目線から見てみれば俺のことをペットとして認識してっから、あながち間違いじゃねぇかも

フューラー様から、屋敷を好きに探索していい、と言われて
ひとらんらん様が膝上の兎を抱っこしたと同時に、エニスに手首を掴まれ、引っ張られる

「ペットをおさんぽに行かせるのは、かいぬしの仕事なのよ」

引っ張る力は子供のものであるから、振りほどくことだってきっと簡単だ。
そんな反抗的な心なんて持ち合わせてはいないが

でも、何故だか不安になってる自分がいる

今の主人はフューラー様。
だが、直接的な命令を彼はしない

恐らくさっきの探索すればいい、という発言はここから去れ、的な意味を込めたんだろう

だったら、素直にこの食堂のドアをくぐり抜けた後
で、どこか俺みてぇなのが待機するに相応しい場所で息を潜めておけば、理不尽に怒られる可能性はあるだろうが、その度合いはきっと低いだろう

正直、エニスに従う意味は無いんだが、だからと言って俺が持つ拒否権なんてのは最初っから無ぇ

加えて、さっき言ったとおりフューラー様は直接的な命令を出されないから、命令ばかりのエニスに従うほか無い

エニスだって、いつこの我が儘を許されなくなるのかが分からない

主人から手の平返しを喰らった途端、今までの分もきっと罰せられるだろう

そうなれば、エニスに従った俺だって当然のように前の主人にいたところと同じ状況に戻るんだろう

分かりもしない未来が抱く僅かな恐怖を漠然と感じて

手首に伝わる幼い手の体温が、その未来へとつなぐもののような気がした

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