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「そ、その……」
トントンさん(瞬きが少ない)が薄く顎を引いて私の返事を催促する。
「水曜日以外は夕方からなら大体入れます……」
「ほんまか？」
「いや、ウソじゃないですっ。ほんとに、ほんとですっ」
慌ててそう返しながら、深い後悔に襲われる。場の空気に呑まれてしまった。
二人とも私が頷くのを望んでいたからだ。空気を読みすぎて自分の意見を言えない自分の性質をこれほど憎んだことはなかっただろう。だとしても、馬鹿正直に答えることもなかったことに今さら気がつく。
でも、こんな怖い人を前にしてウソをつく方が恐ろしいか。
どうしようもなかったんだ。そうに違いない、と自分をどうにか納得させようとしていると、トントンさんが口を開いた。
「最後の確認やけど、ほんまにうちで働くんやな？」
「……はい」
だって、屈強で眼光の鋭い男に睨まれたら、そんなの頷くしかないじゃない。断ったら、じゃあ用済みだっていって蜂の巣にされるかもしれないと思うとたまったものじゃなかった。映画の見過ぎかもだけど、とにかくそれほどまでにトントンさんは怖かった。
トントンさんが立ち上がって私の前に鍵を置いた。
「ロッカーの鍵。できればもう出て欲しいくらいやけど」
「今日、はちょっと」
「え？ 一人で帰れんの？」
チーノが本気で疑問に思っている声色で聞いてくる。来た道を思い出して言葉に詰まっていると、追撃のようにチーノがもう暗いでと言った。
「まあ、今日は予約も入ってないし、解体だけやから」
悩む私に、トントンさんがそう声をかける。私にとっては接客の方がまだ良かったが、トントンさんが怖すぎて断れなかった。承諾したのを撤回しようとするも、二人が私を置いて部屋から出ていってしまったので、閉まった扉に向かって深いため息を吐くことしかできなかった。
貰った鍵でロッカーを開けると、トントンさんとチーノが身につけていたものと同じエプロンがかかっていた。視線を落とせば、長靴まで用意されているのがわかった。エプロンは手に取ると清潔な匂いがする。不愉快ではなかった。だけれど、独房のように無機質なこの部屋と同じ印象を与えるその匂いは私のことをより追いつめるのである。
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田中(プロフ) - 前々から気になっており、やっと今日読みました。素敵すぎました (10月19日 4時) (
レス) @page32 id: d6054e066b (このIDを非表示/違反報告)
凄惨ペロ(プロフ) - miiさん» コメントありがとうございます！拙作へのお褒めの言葉、とても嬉しいです。名残惜しいと言って頂けて、書いた甲斐があったと思えました。本当にありがとうござました。 (6月15日 20時) (レス) id: 7f89f8c794 (このIDを非表示/違反報告)
凄惨ペロ(プロフ) - 桜華さん» コメントありがとうございます。こうして無事に完結できたのは評価やお気に入りをしてくださった皆さんのおかげです。楽しんで貰えたならそれ以上に喜ばしいことはありません。本当にありがとうございました！ (6月15日 20時) (レス) id: 7f89f8c794 (このIDを非表示/違反報告)
mii(プロフ) - コメント失礼します。完結おめでとうございます！関連作ランキングから見始めたのですが、タイトルから滲み出る不穏さと、リアルでありながら綺麗に可愛らしく描かれた心情が、とても好きでした。名残惜しいですが、素敵なお話をありがとうございました。 (6月12日 3時) (レス) @page31 id: 2d3cfb07c5 (このIDを非表示/違反報告)
桜華(プロフ) - コメント失礼いたします！完結おめでとうございます。かわいいお名前に惹かれて読みに来たら、まさかのお肉屋さんでびっくりです！！しかし、多彩な文書によって最後までとても楽しく閲覧させていただきました。素敵な物語をありがとうございます！！ (6月11日 23時) (レス) @page31 id: 1bda5ccdb4 (このIDを非表示/違反報告)
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